2020年06月15日
新型ウイルス
研究員
芳賀 裕理
新型コロナウイルスの感染拡大は、当たり前の日常生活の継続を困難にした。高齢者も然り。介護施設でクラスター(集団感染)が発生したり、デイサービス(通所介護)が休止・閉鎖されたり...。これまで通りの介護・リハビリを受けられない人も少なくない。
こうした中、知恵を絞り工夫を凝らしながら、1日も休まずデイサービスを続けている施設がある。筆者の地元・愛知県豊橋市で事業を展開する、生活デザインサービス「笑々(にこにこ)」である。従業員が一丸となり、新型ウイルスに負けずに通常通りのサービスを維持する。
デイサービスとは、要介護認定を受けた人が自宅で生活を続けられるよう、介護施設が日帰りのサービスを提供する事業。身体機能の維持・向上のため、リハビリのほか入浴や食事、レクリエーションなどを行う。他者との交流を通して認知症予防を図り、家族の介護負担も軽減するなど、今や高齢化社会に欠かせない存在だ。
要介護認定では、介護保険制度の被保険者の介護必要性と段階を判断する。介護保険の適用を申請すると、自治体職員が被保険者の自宅に出向き、その場で基本的なコミュニケーション能力を確認。現在の健康状態や既往歴などをヒアリングした上で、そのデータを基にコンピューターが査定する(1次判定)。それを原案として、医師が「主治医意見書」を作成し、7段階の要介護度を決定する(2次判定)。
7段階の要介護度
(出所)有料老人ホーム検索「探しっくす」を筆者修正
筆者の祖父(85)は要介護支援2と認定され、2020年1月から笑々に通い始めた。この施設は従業員11人、1日の最大利用者14人という小規模型デイサービスを提供する。
デイサービスに通う前、祖父は新しい環境になじめるかどうか心配していた。しかし、いざ通い出すと、その不安は直ぐに消えたそうだ。「従業員や他の利用者との会話が楽しいんだよ」とうれしそうに話す。
前述したように、笑々は新型ウイルス感染が深刻化した後も、一度も休業していない。その理由を、代表取締役の渡辺順平さんに電話でうかがうと、「笑々に通う利用者と、従業員の居場所を提供し続けることが大切なのです」と使命感を熱く語ってくれた。
新型ウイルス対策としては、利用者・従業員のマスク着用と手の消毒はもちろん、利用者が触れる場所の除菌や利用者の検温などを徹底した。一方、利用者の「お出かけ」行事と、サービス希望者や行政関係者などの施設見学は即刻中止した。
幼稚園・保育園の閉鎖などに伴い、人手確保が難しくなった介護施設もある。一方、笑々は元々、従業員が自分の子どもを連れて出勤できるよう職場環境を整えていた。これも休業を回避できた理由の一つだという。
デイサービスに通う毎週金曜日、祖父は普段よりもおしゃれをして、笑々の送迎車を待っている。渡辺さんや従業員の努力のおかげで、今日もお年寄りが「にこにこ」しながら、リハビリ体操を楽しんでいる。
※新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、取材はすべて電話で行い、写真も提供していただきました。
芳賀 裕理